1. Magento CEO Mark Lavelle氏の退任

先日、4月18日に、MagentoのCEO Mark Lavelle氏の退任が、Magentoの公式ブログと氏のTwitterで公表されました。

A Farewell Message from Mark Lavelle
https://magento.com/blog/magento-news/farewell-message-mark-lavelle

Magento CEO 退任

Mark Lavelle氏がどのような人物か知らなかったのですが、どうやら、元々はeBayの人で、Magentoの開発者ではなく、純粋にビジネスマンとして、と同時にMagentoコミュニティへの良き理解者として、MagentoがeBayから独立する前後で、MagentoのCEOに就任したようです。なので、Magento2.0のリリースから、昨年のAdobe買収に至る、激動期のMagentoを率いたことになります。
多くの人が突然の公表に驚いたようですが、中には想定していた人もいるようで、買収後の常道という受け止め方もされているようです。

私はこのニュースをTwitterで知ったのですが、驚きというよりも、上記ツイート ”I know the best is yet to come for Magento!”「Magentoのベストはまだ来ていない(これから来る)」という最後の一文の余韻に、何か胸騒ぎのようなものを感じました。アイロニーがあると裏読みしたのではなく、むしろ、悲哀のようなものが漂っていると感じたのです。

2. Adobe Commerce Cloudのリリース

Mark氏の退任に先立ち、Adobeは、すべてをCloudでマネージドした Experience Cloud 内の製品パッケージの一つとして、Commerce Cloud をリリースいたしました。
https://techcrunch.com/2019/03/26/adobe-launches-its-commerce-cloud-based-on-its-magento-acquisition/

Adobe USA – Adobe Commerce Cloud, part of Adobe Experience Cloud
https://www.adobe.com/commerce/magento.html

Adobe 日本 – Adobe Experience Cloudに統合されたMagento Commerce Cloud
https://www.adobe.com/jp/commerce/magento.html

このCommerce Cloudは、Magento2をベースにしていますが、Adobe Experience Cloud内の他の製品(Analytics、Marketing、Advertisingなど)と連携した、Adobe独自の製品としてCloud上で統合されています。
注目すべきは、AdobeのUSAサイトでは、すでに製品名から「Magento」の名が消えて、「Adobe Commerce Cloud」と名づけられ、ロゴもAdobeシリーズ寄りに一新されていることです。

Adobe Commerce Cloudリリース

ただ、この「Adobe Commerce Cloud」の名とロゴが使用されているのは、まだアメリカとカナダのサイトのみで、日本も含めて他の国のAdobeサイトでは、「Magento Commerce Cloud」の名とMagento2の従来のロゴが使われています。アメリカ/カナダのAdobeサイトでも、ImagineというMagentoのイベントのバナーが貼られているので、AdobeサイトからMagento要素が消えてしまった、というわけではありません。今後、全世界的に「Adobe Commerce Cloud」の製品名で統一されていくことになるのかも、現状では、傍目になんとも言えない状況です。

ただ、この一新された名とロゴの指し示していることは、AdobeのCloudサービスに統合された「Magento2」は、コード的な中身はMagentoベースだけれども、製品としては、もうすでにAdobe独自のものになっている、という歴然とした事実です。

昨年の記事 Adobe+Magentoはオープンソースであり得るのか にも書きましたが、AdobeによるMagentoの買収で懸念されていることは、Magento2のオープンソース(無料版)が閉じられてしまうことです。
これに対しては、Adobeの開発もオープンソース化している面もあり、Adobe自身がMagentoのコミュニティに価値を見出した上での「買収」であるから、その中心にあるオープンソースの唐突なシャットダウンは考えられない、というのが一般的な見解です。

楽観的な見通しは、AdobeのCloud製品とMagento2のオープンソース版が永続的に共存し、オープンソースがCloud製品への集客としても効果的にワークするような状態です。(PhotoshopとPhotoshop Elementsのような関係を想像してもいいかもしれません。)

Magentoには素晴らしいコミュニティがあります。それは、Ecosystemとも言われていますが、Magento社、開発者、ベンダー、サードパーティー、エンドユーザー、それぞれがこのコミュニティの中で役割を果たし、それぞれが利益を享受できる、理想的な相互関係です。私も、一ユーザーとして、MagentoのEcosystemが存続してほしいと願っています。

しかし、Adobeには、Adobe独自のEcosystemが存在しています。
買収という事実を踏まえ、ニュートラルに考えれば、Magentoの既存のEcosystem(パートナー会社)は、AdobeのEcosystem内に、必要に応じて段階的に(もしくは選択的に)統一されていくのではないだろうか、という予想が自然と成り立ちます。

果たして、そうなった時、Magento2のオープンソースがどうなるのか、今のところ、全く予断ができません。

確実に言えるのは、Adobeは株主のいるバリバリの営利企業であり、$1.68ビリオンで買収したMagentoに、しっかり利益を出してもらわなければならない、そうでないと困る、ということです。

ある意味、「Adobe Commerce Cloud」は、Magento3とも呼ぶべき存在です。
これは、「Magento」という名の消えたMagento3の原型であり、すでに閉じられた環境へとシフトしつつあると見ることもできます。

3. Magentoの2020年問題

Magento2のオープンソースの行き末を考える時、参考になるのは、今まさに現在進行形であるMagento1の終わり方です。

Magento1系のサポート期限は、2020年6月までとアナウンスされています。もともと、2018年11月までの期限とされていましたが、2020年に延長されました(ご参考:Magento1.9のサポート期限が延長されました)。そして、どうやら、今回は本当に2020年の6月で、Magento1系の公式サポートは打ち切られると予想されます。

Magento1ユーザーは、Magento2への移行か、他のECプラットフォームへの移転を計画する時期なのですが、一方で、Magento1を使いつづけるという選択肢もあります。それは、Magentoのコミュニティで継続されるサポートサービスを利用する方法で、私の知っている限りでは、すでに以下の二つのポータルがあります。

Mage1 Long Term Support Magento 1.9.x after 2020
https://mage-one.com/

OpenMage Magento Long Term Support
https://openmage.github.io/magento-lts/

公式サポートも延長され、その後もコミュニティからのサポートポータルが立ち上がる。Magento1は、とても恵まれたプラットフォームで、これは、ひとえに、Magento1のユーザーが多いからこその結果と言えます。
Magentoのシェアはここ数年で減少していますが、現在もMagentoユーザーの全体のうち、80%〜90%が、依然としてMagento1系を使っていると推計されています。

ECプラットフォーム シェア

上の図は、BuitWithという調査サイトでの、ECプラットフォーム別の世界シェアを示したグラフです。アクセス数のTop1ミリオンサイトから、ECサイトのみを抽出し、(おそらくコードから)プラットフォームを自動判別した推計データです。
2019年4月現在、1位がWooCommerce(WordPress)22%、2位がShopify 18%、3位がMagento 12%となっています。

AheadworksというMagentoベンダーが、やはりTop1ミリオンサイトを基準に2015年10月に調査したデータでは、Magentoオープンソース+MagentoEE(有償版)は、合計で30%を超え、当時、世界シェアNo.1でした。
https://www.aheadworks.com/blog/ecommerce-platforms-popularity-october-2015-top-five-solutions-take-three-quarters-of-the-market/

調査条件や手法がすっかり同じではないと思うので、純粋に比較するのは難しいのですが、Magentoは、Magento2をリリース以降、その世界シェアを30%台から12%に大きく後退させたことになります。
しかも、現在のMagento利用者のうち、8-9割がMagento1系の残存組なので、2020年6月でサポートの切れる1系を除いて、仮にMagento2系ユーザーだけでMagentoの世界シェアを推計すると、向後1年の伸びを考慮したとしても、わずか1%〜2%ほどしかないという数字が導き出せます。

これは、Magentoの2020年問題ともいうべき大問題です。

ユーザーのいない(少ない)Magento2が、数年後どうなるのか。Magento1のような長期のサポート環境が確保されるのか。
2020年以降、Magento1系から2系への移行特需がなくなった後も、AdobeにとってMagentoコミュニティ全体が「価値あるもの」と映るのか。
Magento/Adobe社は、将来の影響を最小限にとどめるため、意図的にオープンソースのユーザーを減らそうとしているのではないか。

Magento2を導入する場合には、このような視点からもその是非を検討する必要があります。
あるいは、そもそもの初めから、Adobe Cloudの有償製品のみを、今後の「Magento」の第一選択肢として考えるべきなのかもしれません。

もちろん、これは私の個人的な見方で、必ずこのような方法へ向かうと確信しているわけでもありません。Magentoの将来には、様々なバリエーションが想定されると思います。

ただ、Mark Lavelle氏の退任と、「Adobe Commerce Cloud」という製品名を同時に思う時、オープンソースとしてのMagento2の未来は、100%視界良好と言うわけにはいかないと、そういう感慨を抱いています。

追記(2019年5月4日):
Adobe社でMagento2のAdobe製品への統合をしている開発者のPeter Sheldon氏は、Jamersanホストのインタビューで、Magentoのオープンソースは継続(27-31分あたり)、また、オープンソースは小規模のストア運営者向けに(1時間10-13分あたり)、という趣旨の発言をしています。(*あくまでも現段階でのAdobeの広報的なニュアンスもあるかと思いますが。)
Adobe Commerce Cloudは、方向性としては完全に大規模エンタープライズ向けで、Salesforce Commerceや、Oracle ATG、IBM WebSphereとの競合を意識しているようです。