中国越境ECについて思うこと – 越境ECの「不都合な真実」

By |2019-04-22T10:59:02+09:002018年1月21日|Categories: 中国越境EC|Tags: , , , , , , , |

はじめて自分の支付宝(Alipay)で買い物をしたとき、その快適さにとても感動しました。
たしか、7年くらい前だったと思いますが、とりわけアカウント開設のオフラインでの煩雑さに比べると、実際のオンラインでの利用があまりにもシンプルで簡便だったため、そのコントラストとギャップがいかにも中国的だと妙に感嘆した覚えがあります。

それ以前にも、おそらく2006年前後から、淘宝网(タオバオ)のサイトは頻繁に覗いて見ていました。iPhoneはまだ登場しておらず、誰もがパソコンでネットショッピングをするのが当たり前だった時代です。淘宝のあのオレンジ色の丸まった漢字三文字のロゴは、当時からまったく変わっていません。あのロゴが、eBayを打ち破り、eBayを中国から撤退させたのだと(唐突ですが)私は信じています。

中国のネット通販が成長することは多くの人が予想していました。しかし、2000年代の日本で「ネットで中国にモノを売る」という発想は、まだあまり真剣に考えられていなかったと思います。私自身も中国茶の輸入販売をしていて、中国は「仕入先」であり、中国人を「お客様」にする商売をしていたわけではありません。

先駆者はいました。多くは、日本に滞在している日本語の上手な中国籍のビジネスマンで、中国の富裕層向けに日本の高品質な商品を売ることを情熱的に語り、宣伝本を出版し、独自のサービスを立ちあげていました。いま、そのすべてが消えてしまったかどうかは知りませんが、発想そのものが間違っていたわけでは断じてなく、単に「早すぎた」ということなのかもしれません。私個人としては、現在の中国越境ECブームよりも、むしろ当時の彼らこそがホンモノだったのだ、と考えています。

実は、淘宝网の創始者であるアリババCEOの马云(ジャック・マー)も、日中間の越境ECでは一度「失敗」をしています。
2010年、淘宝はYahoo!JapanのYahoo!ショッピングと提携し、双方のプラットフォームの商品を国境を越えて相互に販売し始めました。中国では「淘日本」、日本では「Yahoo!チャイナモール」という名前でした。しかし、自動翻訳の精度の悪さ、送料関税の加算、領土問題の発生、震災後の放射能懸念などにより、2年足らずでこの提携サービスを終了させています。
(もし、この淘宝とYahoo!ショッピングの提携がつづいていれば、日本での中国越境ECの風景は、いまとは随分違っていたものになっていたはずです。)

その間も淘宝の中国本土での成長は止まるところを知りませんでした。淘宝商城としてスタートしたB2C版Taobao Mall(Tmall)は、2012年に天猫(Tian mao)と改名し、その年の11月11日に100億元の売上記録を建てます。そして、2016年の11月11日にはその10倍以上の1200億元(約2兆日本円)の売上を1日で達成しました。売上高はアリババの自社発表の数字なので透明性はありませんが、ものすごく大きなマーケットであることは確かです。

天猫と淘宝のプラットフォームはドメインも違い、基本的にはそれぞれ別のプラットフォームなのですが、バックエンドでのユーザーアカウントは共有されており、淘宝のアカウントでそのまま天猫の商品を購入することもできます。実際、淘宝からの商品検索では天猫出店の商品が上位表示されるようなアルゴになっており、アリババにとって収益性の高い天猫への誘導が積極的になされています。
天猫は、アリババに認証された法人のみ出店できるので、品質面での訴求は確かにしやすいのですが、実際には、最もボリュームの大きい中間層のユーザーにとって「天猫は高い」という印象があるので、天猫で欲しい商品が見つかっても淘宝のほうで同じ商品を探す傾向があります。また、淘宝店舗でのレヴューによる評価は数年以上の運営実績がないと繁盛店の証しにはなりませんが、天猫では出店直後から「売れている」感を演出できるので、出店企業にとってはプラスなのですが、消費者の視点からは「天猫だからと言って絶対に信用できるわけではない」という暗黙の判断も動くので、淘宝店舗が一方的に不利になっているわけではありません。
淘宝の出店料は基本無料ですが、天猫は契約出店になるので、天猫に出店しても次の契約更新条件をクリアできず、すぐに消えてしまう中国企業店舗が多いことも忘れるべきではありません。これは、天猫だけではなく、JD京東に関しても同じです。

日本法人は、天猫に出店するには中国法人を作り、該当するライセンスを取得しなければなりません。物流面では中国保税区へのコンテナ納品という流れになり、中国国内ではアリババ傘下グループの快递が受注後ドアツードアで配達してくれます。正攻法ですがハードルは高く、天猫出店だけのためにこれができる企業は限られてきます。
事実、アリババは天猫に出店できる外国企業を選別しており、日本法人のままであっても香港の天猫国際には出店申請することはできますが、やはりアリババの審査に通らなければなりません。

一方、これが最もハードルが低く、その気になれば誰でもチャレンジできるアプローチなのですが、法人ではなく、個人名義で淘宝网に出店する方法もあります。
淘宝に店を開くには、先ずは支付宝のアカウントを取得する必要があり、支付宝を使えるようにするには、中国の銀行に口座を開く必要があります。これは天猫であっても基本的には同じ仕組みで、つまり、天猫や淘宝に出店して売上があっても、それは支付宝と紐づけられた中国の銀行口座への出金となり、その売上を回収するには中国の銀行からお金を移動させなければなりません。特に、外国人個人名義の口座はインターネットバンキングでの両替や海外送金ができないので、中国内に信頼できるネットワークを持たない場合は、売上回収のために自ら中国へ出向いて銀行から現金引き出し(と両替)をしなければなりません。また、中国は外貨の持ち出しを制限しているので、金額面でも留意する必要があります。

支付宝(Alipay)は世界随一のフィンテックですが、仮想通貨とは違い、既存の銀行口座のバリューと紐づいて機能しているので、現状は為替や国境からフリーになっているわけではないのです。これは微信支付(WeChat Pay)に関しても同じで、本人認証は日本のクレジットカードでもできるのですが、実際にWeChatにチャージをするためには、中国の携帯番号でWeChatに登録し、WeChatのアカウントを中国の銀行口座(中国内で発行されたクレジットカード)と紐づけなければなりません。
中国のすべての銀行口座には各人の身分証番号が登録されていますので、事実上、中国国家は中国国民の消費行動の大半を一元管理できるビッグデータを保有しつつあることになります。

天猫も淘宝も、中国人が中国人のためにつくったECプラットフォームであり、中国人のルールに支配されています。
そこで外国人が商売をするということは、代金回収という首根っこの部分を「中国」に握られている状態になります。ある日突然なにか(その「なにか」が何なのかは分かりませんが)が起こり、それまで築いた网上店铺が砂上の粉塵に帰すかもしれません。

結局、中国越境EC界隈が、さながらゴールドラッシュのように運営代行サービスで活気づいているのは、このような中国という国に根ざした潜在的リスクが背景にあるからで、単に中国語ができないからとか、中国のネットビジネスがわからないから、とかではないと思います。代行業者を通して名義を借りたりすれば、中国特有の様々なリスクを緩和できるのは事実です。

化粧品が売れる、炊飯器が売れる、と言っても、資生堂の化粧品やタイガーの炊飯器をこれから個人レベルで転売しようとしても、おそらくは何の実りもありません。それは、それこそ2000年代後半から日本在住の中国人が淘宝で展開してきた代理購入商売であり、淘宝で「日本代购」などのワードで検索すると、「全球购」というカテゴリ下にすでに皇冠マークの優良店がキラ星の如く存在しています。
彼らはチームを組み、法人化し、仕入れを強化し、幾年もの競争を勝ち抜いてきた中国越境EC専属の歴戦の勇士です。中国の関税変更にも柔軟に対応する在庫管理能力があります。「日本直邮(日本から直送)」を謳い文句にしますが、商品によっては中国国内に在庫を持つネットワークも駆使します。また、日本の売れ筋商品を熟知しているだけでなく、自らの店舗を専門店化し、店長のキャラでユーザーの心を摑み、中国人の嗜好や流行に合わせて中国語のチャットで絶妙のセールスを行うことができます。最近では「直播」というライブストリーミングで、テレビレポーターのように店先で商品の説明を行い、リアルタイムで質問に答え、場合によっては試着などもして、しかもそのライブ中継を毎日延々とフルタイムワークで行い、驚くほどの売上をあげます。彼らにとってそれは自らの労働でなす業であり、一方、中国語のスキルのない日本人がそれと同等のサービスをするには、やはり代行業者に頼るしかなく、その段階でもう勝負はついています。

しかも、いまはC2Cは淘宝だけでなく、微店もあります。微店は微信(WeChat)アカウントと連携したスマホのアプリだけで構築/運営できるミニ通販で、中国ママ友の巣窟とも言えます。そのようなネットワークに入るのに、コンサルタントのアドバイスなどは無用の長物で、運営代行などあまりにも非合理です。パソコンのできない中国人ママが隙間時間にスマホでサクッと無料で完成させることを、日本の企業が大枚をはたいてああでもないこうでもないと暗中模索するのは、スタートラインの発想が間違っています。そもそも、WeChatストアのオフィシャル企業アカウントは、天猫出店と同じように、中国の法人格がないと開設できません。

インフルエンサーを利用した広告出稿などを委託しても、母集団が数億の言葉の海の中でどれだけのコンバージョンに結びつくのか、その効果を数字だけでなく、心理的な波及を逐一分析できる中国語の読解能力が自分(自社の従業員)にない限り、誰か人任せにするだけでは、なかなか次のステップへと繋がる手ごたえを得るのは難しいかもしれません。

とはいえ、何事もやってみなければ始まらないのは道理で、中国越境ECに関しても、中国語ができないからと言って何もしないというのでは、せっかくのチャンスを逃していることになります。特に、レアなオリジナルブランドを製造するメーカーにとっては、中国が好き嫌いに関わりなく、中国市場を意識しないわけにはいきません。网易考拉(Kaola)や小红书(Red)など、新しい越境ECプラットフォームも登場し、この市場がまだ成長の途上にあるのは間違いないでしょう。

私自身、日本人/日本法人にとって、これから中国越境ECに新規で参入するのに、まったく可能性がないと思っているわけでもありません。
正攻法で天猫に出店するのなら、日本のアリババalibaba.co.jpに問い合わせるのが一番です。出店条件をクリアできるのなら、とにかく運営代行を利用してでも反響を見るのは得策だと思います。あるいは、もし予算が許すなら、天猫運営のために中国人の従業員を新たに雇うべきです。
個人名義で淘宝に出店するのなら、先ずは淘宝网のサイトをしっかり研究することが大切です。(日本のIPアドレスから淘宝にアクセスすると、world.taobao.comの淘宝日本にリダイレクトされてしまうので、サイト左上のストアスイッチャーで「中国大陆」を選択し、中国大陸の中国人が見ているwww.taobao.comの本ストアを見るようにしてください。)

马云(ジャック・マー)は、事あるごとに「アリババは小さな会社のためにある、アリババの成功は小さな会社のおかげだ」という趣旨のことを口にしていますが、それは中国の小さな会社のことであり、日本の小さな会社は、そのアリババの天猫/天猫国際に出店することすらままならない状況です。いまも马云本来の思想が形なりにも生きているのは、天猫ではなく、淘宝网のほうなのかもしれません。

その上で、どのようなポジションであれば可能性があるのか、どのような攻め方であればリスクを軽減し、尚且つ将来的な成功が見込めそうなのかについて、淘宝や天猫というプラットフォームだけでなく、自社サイトの展開やMagentoの利用を絡めて、また別の記事で私の見解を書きたいと思います。